2019-01-01から1年間の記事一覧

フォルマントの山と谷

仮に、基本周波数100Hzで作られた「ɔ」に相当する合成母音を発生させたとする。 その音声スペクトラムは、100の整数倍に高次パルスがヒゲのように立ち並ぶ。 そのパルスの頂点をなだらかに結んでいくと、大きな山と谷が現れる。 この山がフォルマントである…

3000Hzとアプリ

極論を言えば、発声というものを教えたり、教わったりすることはできない。 たとえば、耳を動かせる人はたまにいる。 でも、どうすれば耳が動かせるようになるのかということを説明できる人はいない。 解剖学者だってできないであろう。 言えるのは、耳を動…

強く、柔らかく、美しく

「強く、柔らかく、きれいな声」と言うのは、私の思う発声の理想像なのだが、 「強く」とは、音量の大きさだけではなく、 芯のある、地声の混ざった、低音の響きがある意味である。 それには、息から声への変換効率が良くなければいけない。 そして、響きの…

力ではなく感覚で

「何かやろうとするとき、力でなく感覚でやるように考える」 これは名言だと思う。 そして、これがボイトレの大前提であることを忘れてはいけない。 たとえば、フースラーの言うアンザッツもそのように考える。 声の当てる場所を前歯とか眉間、頭頂と指示さ…

音源フィルタ理論からも

音源フィルタ理論というものがある。 人工的に合成音声を作るための理論であり、 音声というものを、喉頭音源と呼ばれる入力信号に繋がる声道フィルタと、 口唇からの放射特性フィルタの直列接続としてとらえる理論である。 さらに書くと、 喉頭音源の周波数…

ウォーミングアップの目的

発声にもウォーミングアップという概念がある。 いきなりフルボイスで声を出さずに、徐々に喉をあたためてから歌うようにしないさいという意味である。 おそらく誰もが、そのような実感は持っているであろう。 「歌の練習を始めてみたけれど、いっこうに調子…

音程が上がるとき

どのようにして音程が上がるのかを考えてみる。 まず声には、2種類の発声様式がある。 それが、「地声」と「裏声」。 それぞれの発声のメカニズムは異なっていて、これが「声区」の違いを生む。 この声区の境界を、「喚声点」と呼んでいる。 「ベルカント発…

後ろを回す2 後方スライド

前回記事では、声を後ろに回すということは、喉頭を下げるということと同じと書いた。 しかし、喉頭の動きは、鎖骨に向かって引っ張るのと、耳の後ろに向かって引っ張ること以外に、 背骨側に向かって引っ張る筋肉もある。(輪状咽頭筋) これによって、喉頭…

後ろを回すという意味

「声を後ろに回す」という言葉がある。 発声レッスンの中でも、これはおそらくF難度級の技だと思っている人が多いのではないか。 ただ後ろを回せと言われても、何をどうすればそうなるのか誰も分からない。 そのヒントになるのが、「あくびのように」である…

指導は絶対ではない

たとえば、ミックスボイスを練習するときには、 ファルセットを出して、そこからできるだけ下まで降ろすようにと書かれていることが多い。 また、母音発声をするときには、「ウ、オ、ア、エ、イ」とか「イ、エ、ア、オ、ウ」と練習するのが普通である。 他に…

ミックスボイスの意識

ミックスボイスを習得することが、声楽発声の目標と言えるだろう。 それは、ミックスボイスが楽器の音色に近いからではないだろうか。 ただ音を発生させるだけでは楽器とは呼べない。 楽器は、全音階において一定の音色を保ち、 音量を自在に操ることができ…

肩を下げる

「肩が上がっている」と言われたことがある。 そこで肩を下げようと試みるのだが、実際に下がっている気はしない。 更に下げようとすると今度は、肩に力が入ってしまうだけだった。 すると、「肩を地面に近づけるように」と言われた。 なるほど、やってみる…

もっと〇〇する

発声練習の時、指導者から「もっと〇○して」という言われ方をすることが多い。 しかし、この「もっと」という言い方に混乱してしまう生徒が多いのではないだろうか。 例えば、「もっと喉の奥を開けて」と言われたとしよう。 本人はすでに最大限開けているつ…

良い生徒

「先生の言うことをちゃんと聞いていない」 「先生の言われた通りにしていない」 だから、正しい発声ができないのだという理屈になる。 「先生の言うことを一生懸命聞いて、そうしようと努力しています」 では、だめなのだ。 それは自分の気持ちでしかない。…

共鳴ではない

「鼻腔共鳴は存在しない」という話を、前回は書いた。 それが本当だとすると、それは衝撃的な事実である。 別に、指導者が間違ったことを言っているというつもりはない。 そういうイメージを持つことが、効果的であることは変わりない。 ならば、「鼻腔に響…

鼻咽腔閉鎖

鼻腔と口腔は、口蓋という仕切りによって分けられている。 口蓋の前方部は硬口蓋で、後方部は軟口蓋とさらに奥の口蓋帆そして垂れる口蓋垂からなる。 鼻腔と口腔は口蓋帆の奥で繋がっており、その部分から下を咽頭と呼び、咽頭から下の気道側を喉頭と呼ぶ。 …

緊張するのは

発声指導者の前では、常に最高のパフォーマンスを出したいという思いが強くなる。 しかし、人前で歌うことで、モチベーションが上がり、普段よりも良い声が出る人もいれば、 いつもできていることが緊張のためにできなくなる人もいる。 そこで、どちらが良く…

息をたっぷり流すとは

最近の発声練習で、チェックポイントとして気を付けていたのは、 ・常に吸い込むような感覚で声を出す ・全方向への響き ・音圧増大の響き ・高音強化 それなりに効果が上がっていたのは実感できていたのだが、 あまりにも効果重視になっていたようだ。 どち…

注射器のように

身体を注射器のようにイメージしてみる。 100均で売っているような、針のないプラスチックの注射器を逆さにした状態。 ピストンの先にある黒いゴムパッキンが横隔膜で、 ピストンの柄を下に引っ張って空気を吸い込む。 シリンダが胸郭で、その内部が肺という…

背中に息を回すとは

どこの発声練習でも必ず言われることは、「息を背中に回せ」だと思う。 それが発声の基本中の基本であり、究極の姿でもある。 しかし、そう言われてみたところで、 「はい、背中を回してみました」と、いくわけがない。 そもそも、私たちは背中を息が回るな…

マインドフルネス式

以前、マインドフルネスのことをテレビ番組で紹介していた。 「背骨の上に頭を乗せ、そこからちょっと上に引っ張られるような感じで背筋を伸ばす。 そして、肩を下に押し下げながらお腹で呼吸をしてみてください」 肩を下げると自動的に身体の力が抜けるのだ…

最近意識していること

最近意識している練習。 どの母音も、口の奥で発声されていること。 一番やりやすい「ウ」から始めて、「オ」「ア」「エ」「イ」と続ける。 そのとき、「オ」は胸の響きを意識して、「ア」ではマスクへの響きをプラスする。 「ア」は声が前にでるので、「ウ…

メッセージ

「メッセージ」というSF映画がある。 原作は、「あなたの人生の物語」というSF短編小説である。 宇宙から訪れたエイリアンと、言語学者の女性のファーストコンタクトを描いたものだ。 この作品がよくあるSF映画と異うのは、 エイリアンの目的が侵略でも、友…

しゃぼん玉で練習

前回はハミング時の空間イメージについて書いたが、 それは自分の頭の中を納得させるためのことだったのかもしれない。 気道を広げるようにとか、鼻腔に息をたっぷり流すというように思えば、 なるほどそれは理にかなっていると判断でき、それを行うモチベー…

ハミングを丁寧に

練習の最初はハミングから行うことにしている。 しかし、残念ながらそれをウォーミングアップだという感覚で、 惰性的にやっていたのだと思う。 あまり目的意識をは持っていなかった。 ただ、ハミングでも大きな音を出せるようにするというくらいの意識しか…

目的があって動作がある

押し込み唱法の考え方の、どこに間違いがあったのだろう? 口蓋に息をぶつけることで、鼻腔への流れを増やすという考えは間違っていないと思う。 しかし、それだけでは口蓋に息がぶつけられなくなるときが来る。 高音になった時だ。 そんな時、「これは高音…

再び吸い込み唱法

「息の吸い込む感じ」で声を出すという意味が、ようやく解ってきたように思う。 以前に、吸い込み唱法と押し込み唱法について書いたことがあるが、 あの時は、押し込み唱法には納得できるが、吸い込むやり方については、 まだ頭の中が納得できていないという…

平らに歌う

「平らに歌う」ということが発声で求められる。 これは、楽譜の強弱記号を外して歌えばいいというものではない。 「平らに歌う」ということはとても難しいテクニックが必要だということだろう。 なぜそれが難しいのか、それを考えてみる。 例えば、バイオリ…

1かゼロか

「喜びの中に悲しさがあり、悲しさの中にも喜びがある」 と前回書いたが、その「強度」という概念は、発声法にもつながるところがある。 ミックスボイスという発声法だ。 簡単に言えばファルセットと地声を混ぜた声なのだが、 ここで大事なのは、どんなに高…

喜びと悲しみと芸術と

ある指揮者のインタビューで、 「この曲には、喜びの中に悲しさがあり、悲しさの中にも喜びがある」 と語っていた。 私はそれが芸術の神髄だと思う。 今、歌っている「いっしょに」という曲も、歌詞の内容や旋律を見れば、 それが悲しみの中から生まれた曲だ…