音源フィルタ理論からも
音源フィルタ理論というものがある。
人工的に合成音声を作るための理論であり、
音声というものを、喉頭音源と呼ばれる入力信号に繋がる声道フィルタと、
口唇からの放射特性フィルタの直列接続としてとらえる理論である。
さらに書くと、
喉頭音源の周波数スペクトルは、-12dB/octの特性を持つ。
つまり、音程が上がるにつれて、音量は大きく下がる。
それに対して、
声道フィルタの特性は、特定周波数に対してフォルマントという、
山を形成するが、音量の変化は特に見られない。
そして、放射特性は+6dB/octの特性を持っている。
つまり、高い音はより大きな音量を生み出す。
声道フィルタを構成しているのは、主に咽頭腔と口腔と鼻腔である。
そのうち咽頭腔と口腔は共鳴現象によって特定周波数の山(フォルマント)を作る。
逆に鼻腔は、口腔に対して分岐菅となっているため、
反共鳴を起こして谷(アンチフォルマント)を作る。
反共鳴は、二又に分岐した菅によって生じる減衰現象である。
鼻母音のように、空間が口腔と鼻腔に分かれる(鼻音化)際に生じる。
鼻音化による声の減衰を防ぐには、軟口蓋を上げて鼻腔への道を閉じる必要がある。
この声道フィルタをモデル化したものが、声道模型である。
ブザーのような音源を発する装置に、断面積が細くなったり、
太くなったりしたパイプをつなぐことで、母音を作り出すことができる。
このように、音色や音韻を決めているのは、声道(声帯から口唇)である。
声道には、二つのパラメータがあって、
声道長と声道断面積の関係がそれを決定する。
声道長は、男性で17cm程度、女性で14cm程度であり、
大人と子供によっても長さは異なる。
この声道長は変えることができる。
1.唇を前に突き出す
2.喉頭(喉仏)を下げる
これを体感するには、まず「イ」の母音を出す。
そのまま唇を前に突き出すと、音色が暗くなります。(音程が下がる)
今度は、「イ」を出しながら喉仏を下げてみる。
こちらも同様に、音色が暗くなる。
次に、「イ」を出しながら、口角を持ち上げてみる。もしくは、前歯を見せる。
これによって、声道長は短くなり、声の音色は明るく(高くなる)なる。
また、喉が上がっても同様に音色は明るくなる。
菅楽器と同じ原理です。
このことから、音程の微調整機能(音色)を、声道長が担っていると推測できる。
口の中の開き方や、喉の開き方は断面積形状に影響を与えて音韻を作る。
例えば、「イ」を発音するときには、口唇から奥に向かって4cm入った部分の断面積が、
一番小さくなることが知られている。
「エ」は、その場所がやや広がる。
「イ」の音が、8オクターブ上の倍音が大きくなるのに対して、
「エ」の音は、基本周波数以外に突出した倍音が見られない。
ウ、オ、アの音韻は、10cm奥に入った部分が一番狭くなり、4cmの部分では逆に広く開く。
歌い手は、こんなことを気にする必要はないのだが、
息の流れというものは、声道フィルタには関係なく。
喉頭音源を作る上で必要だということは、理解していた方がいいだろう。
喉頭音源の特性では、音が高くになるにつれて、音量が下がる。
つまり、音量を一定に保って歌には、音程が上がればその分、息の量を増やさなければならない。