倉庫で発声

倉庫のように天井が高く広い空間があったので、

そこで声を出してみた。

近隣には人の気配も無く、大きな声を出しても誰に聞かれる心配もない。

そういう空間だと、声が壁から跳ね返ってくるのに時差があるのか、

自分の声がいつも以上にしっかりと聴き取ることができた。

逆に、普段は全然自分の声を聴けていないのだと実感する。

歌ではなく、声そのものだけを聴くということは、

どこか瞑想的な感覚が得られるようだ。

徐々に自分の声に聴き入ると、自分が声を出している側なのか、

聞いている側なのかが区別できなくなる。

一体何を聴いているのだろう?

通常、音とは聞かされるものである。

しかし、自分の声を聴く場合は、

まるでウロボロスの蛇のようにループを描く。

空間と声が一体となったとき、

つまり、ほとんど声を出している感覚が無くなるほど、

声帯効率が良い時は、そんなふうに感じる。

すると、心にも身体にもゆとりが生まれてくる。

そして、自分の無意識の癖にはっきりと気づくようになる。

私の場合は、唇の周囲に力が入っていたことを、この時初めて気づいた。

唇の周りをダラーンとさせてみる。

「ああ、これが脱力状態なのか」と感じた。

脱力状態は、どこか心許ない状態であり、

それを維持することは難しいと思った。

どこかに力を入れるとその脱力状態が維持できた。

それはお腹と腰だった。

顔から遠い場所に意識を向けることで、力が抜ける。

おそらくこの精神状態で日々練習していれば、

すぐに発声は上達するだろうと感じる。

身体のいろんな部分の感覚が敏感になっている。

こう言うのを、集中力が高いと言うべきなのか、

心がリラックスしていると言うべきなのか、わからない。