ウォーミングアップの目的

発声にもウォーミングアップという概念がある。

いきなりフルボイスで声を出さずに、徐々に喉をあたためてから歌うようにしないさいという意味である。

おそらく誰もが、そのような実感は持っているであろう。

 

「歌の練習を始めてみたけれど、いっこうに調子が上がらない。

 昨日は上手くできていたのに、今日は調子が悪い。

 きっとまだ歌い始めだから、ウォーミングアップが足りていないのだろう。

 身体が温まっていないのだろう」

 

「本番当日の朝は、まずシャワーを浴びてから声出しをしている。

 身体を温め、血行を良くしないといけないと思うから」

 

これで、上手く声が出ればいいのだが、問題は、それでも声が出なかった場合にどう考えるかだ。

さて、ウォーミングアップは本当に必要なのだろうか?

血行が悪いと、本当に声は出ないのだろうか?

 

正しい答えは分からない。でも、ただ一つ言えることがある。

<喉を温めれば、いい声がでるとは限らないということ>

つまり、絶対ではないということだ。

いい声が出る時もあるだろうし、出ないときもあるというのが事実。

それなのに、出ない理由を体温の低下と決めつけるには無理がある。

そういう状態では、必死にシャワーを浴びても無理だろうし、

ジョギングして体温を上げるのも無駄であろう。

昭和初期の自動車じゃあるまいし、あたたまらないとちゃんと動かないというのは、

精度の悪い、摩擦だらけの機械であろう。

体温が一定に保たれている私たちの筋肉や関節に、そんな影響があるとは思えない。

むしろ、影響があるとしたら、「脳が(発声的に)覚醒していない」からではないだろうか。

 

心理的に適度なリラックスと、喉頭調節に必要な繊細な緊張感を呼び覚ませば、

いつでもスタンバイに入れると考える。

そういう精神状態を作るためなら、どんなルーチンを使うのも自由だが、

身体や喉を、ただあたためればいいと考えるのは無謀だと思う。

おすすめは、腹式呼吸を利用した瞑想状態から自分の声を聴くこと。