音程が上がるとき

どのようにして音程が上がるのかを考えてみる。

まず声には、2種類の発声様式がある。

それが、「地声」と「裏声」。

それぞれの発声のメカニズムは異なっていて、これが「声区」の違いを生む。

この声区の境界を、「喚声点」と呼んでいる。

ベルカント発声」では、この喚声点をスムーズに通過させることを

「パッサージョ」と呼び、美しい高音を出す重要な技術としている。

 

地声と頭声は、それぞれ長所と欠点をを持っている。

しかし、これを上手く組み合わせることで、喚声点を無くしてしまおうというのが、

「ミックスボイス」の考え方である。

理想的な声質として、ベルベットボイス(ビロードのような声)というのがある。

裏声や息漏れ声を、綿や麻の布に喩えるとしたら、

息漏れのない声は、絹ように緻密な布と言えるだろう。

ただ、絹では薄くて軽く、厚みが無い。

絹のように緻密で、なおかつ深みのある声が、ビロードではないだろうか。

それはまさに、裏声に地声を交えたミックスボイスである。

 

地声は、声帯がしっかりと「閉鎖」され、息が声に変わる変換効率(喉頭効率)が良い。

そのため、音量を稼ぐことができる。

欠点としては、喚声点を超えると、声帯が完全に閉鎖されてしまい、息が流れなくなることだ。

それによって、高い音域では喉締め声になる。

 

裏声は、声帯の間に僅かな隙間を作り、声帯の合わせ目だけの粘膜を振動させている。

声門が完全に閉じないので喉頭効率は悪いが、軽い粘膜だけの振動により、高音が得られる。

 

ミックスボイスは、裏声をベースにして声帯を部分的に閉じることで声帯を短く部分的に使っている。

(壊れたズボンのチャックのイメージか、締めたのに半分開いてしまうような)

事実上、声帯が短くなったことと同じなので、地声のまま高い音域に上がることができる。

 

地声で音程を上げるメカニズムは、声帯の「伸長」とそれに適した「閉鎖」にある。

伸長した声帯は、弦で言うところの張力が増し、弦が細く軽くなることで音程が上がる。

裏声では、閉鎖が十分でないため、声帯へのダメージを少なく音程を上げることができる。

 

実は、音程を上げるにはこれ以外の方法もある。

それは話声の時に使われるやり方であり、声楽には好ましくない。

いわゆる喉締め声である。

ハイラリンクスとも呼ばれ、喉頭を上げることで声道が短くなり、音程は上がる。

しかし、声楽でこれをやってしまうと、すぐに喉は疲弊し、正しい発声には戻れなくなってしまう。

歌唱表現の一つとして、意図的に使う以外は極力避けなければならない。

喚声点を越えたら要注意である。

高い音を出すことだけを優先させて、無理に音程を上げるとハイラリになる。

喉仏を下げる、声を下に引っ張るというのは、ハイラリを防止するためのやり方である。

喚声点を越えるときには、地声の閉鎖筋が弱まるのが正しいという。

そして再び、閉鎖筋と伸展筋が強まっていく。