肩を下げる

「肩が上がっている」と言われたことがある。

そこで肩を下げようと試みるのだが、実際に下がっている気はしない。

更に下げようとすると今度は、肩に力が入ってしまうだけだった。

すると、「肩を地面に近づけるように」と言われた。

なるほど、やってみるとこれなら下がった気がする。

その時、鎖骨が下に引っ張られ、そこに繋がっている喉頭からの筋肉も

下に引っ張られているのが分かった。

そして、喉仏が下がり、声帯は伸ばされ、なおかつ音色も深くなる。

 

お腹を下に引っ張ると、鎖骨も下に引っ張られるという話を聞いたことがある。

つまり、丹田を下に引くことで、その上の胸郭が下に伸ばされ、鎖骨が下がり、

喉頭の位置が下がる。そんな連携動作が起きているのではないかと想像できる。

しかし、これを順々に行っていては、意識がとても追いつかない。

そのため、一連の動作として考えなければいけない。

 

なぜ肩が上がるのか考えてみた。

それは高い音を出すためにそうなるようだ。

喉頭が上がれば音が高くなる。

しかし、それはハイラリンクスと呼ばれ、歌声においては正しい音程の上げ方ではない。

話声における音の上げ方だ。

さらにその状態を観察してみると、首は縮こまり、少し前に突き出そうとしている。

まるで亀が首をすくめているようになる。

明らかに、声道の距離を短くすることで音程を高くしようとしている。

どうやらそれが、最高音を出そうとするときに表れるようだ。

当然それでは、音色は首を絞めたようにキンキンとしたうるさい声になり、

音程も届かず、ただ無理やり出しているだけになる。

はじめは声が出なくてもいいから、この動作はすべきではない。

 

「肩が上がる」という一つの動作の表れの裏には、

これだけの複雑な要因が絡んでいると思うと、

発声とは一つの巨大な体系(システム)であると思う。

発声指導で部分的に言われたことを、過去に言われたことと照らし合わせながら、

一つに統合していくことが大事なのだと思う。

頭だけで考えすぎるのはいけないと言われるが、頭は身体の表れであると思う。

考えてはいけないのではなく、そういう事が頭に浮ぶのは、

身体がそのように学習しているからであると信じている。