三大呼吸筋

呼吸筋と呼ばれる筋肉群の中で、特に発声に重要な筋肉が三つ。

横隔膜、肋間筋、腹横筋。

横隔膜は、言わずと知れた呼吸筋の主役。

筋肉の塊と言われるが、調べてみると全てが筋肉ではないようだ。

頂点部周辺は「腱中心」と呼ばれ、面状の腱になっているらしい。

腱というのは、筋肉ではないので伸び縮みはしない。

たとえば、トランポリンを想像してみればいい。

トランポリンの布部分は、伸び縮みはしていない。

代わりに、布の囲むように取り付けられたスプリングが、

外側のフレームに固定されることで、伸び縮みを担っている。

横隔膜のドームも、伸び縮みするのはドーム周囲の側面であり、

その端は、一番下の肋骨に固定されている。

だから、そのフレームとなる肋骨が、しっかりと外側に向かって張り返していなければ、

スプリングは効かない。

その肋骨を広げているのが、肋間筋。

 

肋骨の外側に貼り付いている外肋間筋は、胸を引き上げることで胸郭を広げ、

肺に空気を取り込む。

いわゆる胸式呼吸を行う筋肉。

胸の中心を通っている胸骨を指で触れると、息を吸った時にこの胸骨が持ち上がれば、

それは外肋間筋が働いている。

内肋間筋は、肋骨の内側に貼り付き、肋骨を下に引き下げようとする。

これを利用して、胸郭を下方向にも伸ばすように広げることが発声には有効となる。

この両方の筋肉を使うことが重要。

 

横隔膜のドームが天井だとすると、その床は、骨盤内の底部にある骨盤底筋。

そして、その間を突っ張るように支えている壁が腹横筋。

腹筋群は、お腹の周りを3重に包みこんでいる。

一番深い部分で、コルセットのようにお腹をぐるりと包み込んでいるのが腹横筋。

インナーマッスルと呼ばれる。

その上に腹斜筋があり、表面には腹直筋が恥骨と肋骨の間を結んでいる。

これらの腹筋群は、息を吸う時には使われない。

むしろ、柔らかくなっていることの方が重要となる。

そして、強い息を吐く時に、お腹周りは腹横筋によって絞られ、

内臓を上に押し上げることで、横隔膜がドーム状に復元するのを補う。

これが、腹圧をかけるという動作であり、呼気のスピードを増すことになる。

但し、この腹横筋。これが有効に活動するには、

その上の層にある腹斜筋や腹直筋が緩んでいることが条件となる。

お腹を触ってみた時、表面の腹直筋が柔らかく緩み、

その内部のインナーマッスルが軽く張っていれば、

それは良い状態と言える。

 

腹直筋が使われる時というのは、身体に力を入れる時。

何か重い物を持つ時、その姿勢をキープするために腹直筋に力が入る。

それと同時に、息は喉で閉じられる。

同じように、声帯を強く閉じようとする時(喉に力がはいる時)、

腹直筋にも力が入り、そのことで腹横筋による横隔膜の上下動を妨げてしまうことが予想される。

喉とお腹は生理的に直結しているのだろう。

「お腹に力を入れて」と言われるのは、この腹横筋に力を入れてという意味で、

それは、腹直筋の力を抜き、声帯の締め付けを緩め、息を流すことになるのだろう。