胸の響き

高い音の響きがマスクに集まるようになると、今度は低い胸の響きが求められる。

高い響きと低い響きの共存。

これがソロで歌う人の条件。

それは、一人で3パートのユニゾンをやっているようなものかもしれない。

ベース、バリトン、テナーの三部もしくは、バリトン、テナー、アルトのような一人三部合唱。

倍音がしっかり出ている時は、自分がどのオクターブで歌っているのか、

分からなくなる時もある。

 

私たちは、声を一つの音高だと考える。

楽譜に書かれたおたまじゃくしが、そうなのだから。

たしかに電子音はそうだと言えるが、人間の声はそうではない。

誰でも、たくさんの倍音の積み重ねで声を出している。

その倍音をどれだけ強調できるかが、声楽のトレーニングと言える。

特に、プロ歌手とアマチュアの違いは、この低い胸の響きではないだろうか。

高い響きに関しては、アマチュアでも多くの人が意識を持って練習していると思われるが、

胸の響きをしっかり乗せられているテナーは少ない。

 

胸の響きを得るには、朝、身体が目覚めていないうちに低い声を出すのが良いらしい。

肋骨がビリビリと振動しているのが分かる。

身体に力が入っていないからだ。

この感覚を崩さないように、少しづつ声を高くしてみる。

すると、ある瞬間その肋骨の響きが無くなる時が来る。

身体が抵抗を始めた瞬間なのだろう。

もう一度やり直す。

やはり、常にその音から肋骨の響きは無くなる。

モードが変わってしまったのだろう。

あとは、ただひたすらそこを乗り越えられるように身体をだますしかない。

 

ここで一旦、意識を胸から外してみる。

前記事に書いた、リップロールを意識しないことと同じだろう。

肋骨ではなく、お腹で低い胸の響きを感じ取ってみる。

お腹に意識を集めることで、胸の緊張を取ることができるのではないか?

このやり方は上手くいった。

上手く脳がだまされてくれたようだ。

お腹で感じようとするとき、お腹は何もしていない。

ただお腹で耳を澄まして待っているだけだ。

結局それは、お腹の無駄な力を抜くことにもなる。