リップロールという現象

リップロールという発声練習方法がある。

唇を閉じた状態で息を吐いて、唇をプルプルと振動させるのである。

リップロールは、唇周辺に力が入っているとできない。

そこで、唇周辺の力を抜く練習としてこれが用いられる。

私は以前、発表会で歌った時、声楽家の人から、

「唇が柔らかく使えていますね」

というアドバイスを頂いたことがある。

でも、なぜそんなことが遠くから見て(聴いて)分かるのだろうか?

と不思議がったことがある。

私は歌う時に、あちこちに力が入ってしまう癖がある。

喉・肩・胸・腹筋、これらの力を抜くことは何十年かかってもできなかった。

しかし、私はリップロールだけは得意である。

でもこのリップロール、半分くらいの人はできずに苦労しているのを見かける。

なぜ、できないのか?

できる私にとっては不思議である。

 

リップロールをやるコツは?

と聞かれれば、それは、ただ唇の力を抜くことだけだ。

それしか言いようがないし、事実、私はそれしかやっていない。

唇を脱力して、そこにただ息を流すだけのことだ。

リップロールができない人は、唇に力が入っているわけだが、

その脱力ができていないことになる。

おそらく、私が肩の力を抜くことができなかった時と、同じ理由なのだろう。

力が入っている自覚がない人に、脱力は難しい。

 

リップロールができない人をよく観察してみると、まず、「自分は出来ないから」

と言う癖があることに気づく。

出来ないのは事実なのだから、それは正しいのだが、

そこに、「出来ない=難しい事」という認識があるのだろう。

私の場合は、これは簡単なことだから出来ると感じている。

そして、出来ない人は、何か複雑なことを唇の周りでやっているように見える。

唇を尖らしてみたり、横に引いてみたり、ラッパを吹くようにいろいろと工夫をしているように見える。

私からすれば、「そんなこと何もするな。ただ唇を閉じて、

そのままだまって息を出すだけ。これほど簡単なことは無い」

と言いたい。

 

私が歌う時に、肩の力を抜けなかったのも同じ理由だろう。

「脱力して」という言葉を、100%受け止めていなかった。

脱力の前に、上手くやろうという意識が先だっており、

できれば脱力した方がいいという捉え方をしていたと思う。

まずは、できるできないを差し置き、100%脱力することだけに専念すべきであろう。

そうでないと、本当の脱力にはならない。

必死に脱力しなければ、力の入る癖は何十年かかっても抜けない。

 

おそらく、リップロールができない人は、リップロールの練習をしたとしても、

永久に出来ないだろう。

リップロールをしようとするのではなく、

完全に唇の脱力をして息を適度に出すことの結果として、

リップロール現象が起きると考える。