緊張と弛緩のミックス
アアアアアアアアアアアー
(♪ドレミファソファミレドー)
という定番の発声スケールをするときに、
下がった時のドの音程が、若干低くなる癖がある。
自分ではそれに気づかない。
たとえそのように指摘されたとしても、
自分の耳がそれでよしと補正しているようである。
「落ち着いて終わりたい」という心理が働くのだろうか。
発声スケールでは、伴奏のピアノのように階段状に歌ってはいけない。
喉は連続的に変化させることが、安定した声の秘訣だから。
しかし、録音を聴いてみると、最後の「ドー」を発声するときに、
一瞬、音の連続性が失われていることに気づく。
極端に書くと、
「♪ドレミファソファミレ、ドー」となっている。
最後のドーだけを、無意識に入り直しているようだ。
もし、バイオリンとかの楽器でそんなことをしたら、
きっと指揮者に叱られるだろう。
器楽奏者のように、自分の楽器に対して客観的な耳を持つことが求められるだろう。
なぜ最後のドで、声を出し直しているのか?
それは、スケールが進行するにつれて喉や身体を開いていくように意識しているしているからだと思う。
そのため、スケールの最後では、音をしっかりと伸ばすだけの余力が無い。
一瞬、身体を緩めて、柔軟性を取り戻した上で、入り直そうとしているのではないか。
その緩みが、ピッチを少し下げているように思う。
緊張と弛緩。これはどのように働いているのだろう?
音の出だしは、弛緩から始まる。
どんな音も、常に「点」から出発する。
そして、緊張を強めながら音量や音階を上げていく。
そう感じてしまう。
しかし、それではフレーズの後半に向かって、徐々に緊張・委縮することになってしまう。
むしろ、フレーズの後半に向かって、弛緩・開放していくようにしなければならない。
この矛盾した感覚のずれを何とかしなければならない。
緊張・委縮からくる声のイメージは、地声。
弛緩・開放からくる声のイメージは、ファルセット。
こう書くと、自ずとその答えが見えてくる。
ミックスボイスの原理だ。
音程が上がるにつれて、地声にファルセットが混ざってくる。
音程が下がるにつれて、ファルセットに地声が混ざってくる。
スケールはその両方を行き来しているのだから、
ただ、音程を上げ下げしているだけでは練習にならない。
地声とファルセットのミックス度を確認するのが、発声スケールの目的ではないだろうか。
言い換えれば、緊張と弛緩のミックス度を変化させる練習と言えるだろう。