積み上げ方式

発声レッスン中に、ああして、こうしてと指導されたとしても、

すぐにその場で対応できるとはかぎらない。

もし、仮にできたとしても、それは偶然であって、

別な個所を指示された瞬間、元に戻ってしまうだろう。

発声練習には、積み上げ方式が必要ではないかと考える。

 

たとえば、声を頭頂部に当てる意識を持ったとする。

すると指導者はこう言うだろう。

「上には当たっているから、それをもっと後頭部の方向へ回して」と。

すると、声を深くした瞬間に、頭頂部への明るい響きは失われてしまうだろう。

指導者は、こう言う。

「上の響きを残したままで、声を後ろに回して」と。

結果として、ベクトル合成のように斜め上後方に意識を持っていく。

指導者は、

「そのままで、もっと息をたっぷり流して」と言うだろう。

なぜなら、音量が弱くなっているからだ。

指導者が求めていることは、「足し算」。

頭頂部に10の響きがあるのなら、さらに後頭部に10の響きを足せば、

合計の響き量は20になるはずだと。

たとえ音色は良くなったとしても、響きの量が10のままでは意味はない。

だから積み上げる練習を、後で自主練する必要があるだろう。

 

今、腹式呼吸の練習で私が意識していることとは、

バルーンアートで使われるような棒状の細長い風船を膨らませるイメージ。

風船が徐々に下に長く伸びていくあれ。

息を吸う時に、胴体(お腹)を下に長く押し伸ばす。

お腹で、骨盤を下に押し下げるイメージ。

いや、イメージではなく物理的に押し下げる動作をしている。

(結果として横にも広がっている)

そうやって、息をたっぷり下に貯め込む。

そして、吐く時は、鮫の連なったエラが一斉に横に開いて、

海水が吐き出されるように、息を吐く。

(結果として重心が下がり、腰に力が入る)

腰に力が入ると、腰回りが太く重く感じて安定感が出る。

その低重心の安定感が、支えとなって胸や、喉の力が抜けるように感じる。

そして、太くなった気道を、大量の息が通っているように感じる。

実際には、声帯に効率の良い呼気圧が当たっているという現象だけかもしれない。

それが、感じ方として、「息が流れている」とか、「喉が開いている」、「支えがある」

と表現されているのだろう。

感じ方は、人それぞれ違うと思った方がいい。

感じる(イメージする)ことと、動作としてやることはしっかり分別する。

それが積み上げ方式を可能にするだろう。

 

ここまでの動作は、声を出さないでやってみる。

過程を意識するだけで、声には出さず、ブレスだけでイメージトレーニングをする。

それができたら、息を吸うときに、舌根を下げてみる。

そして、下がったままの舌根の位置で、息を吐く。

さらに、斜め上後方への息の広がりをイメージしてみる。

(実際には、首を伸ばして、軟口蓋を上げる)

この一連の動作を、何度も繰り返し、身体に覚え込ませる。

野球や剣道の「素振り」のように。

声を出すのはずっと先だと思う。

今は、自分の声を聴いても仕方がない。

余計に、迷うだけだろう。

それよりも、しっかりと動作と手順を覚えることが先だと考える。

自分の声だけを聴いて、自然にそれができるようになる日を楽しみにしながら。