スケールは難しい

発声練習と言えば、ピアノに合わせてスケールを母音で歌うというのが定番だろう。

合唱団で、歌う前にウォーミングアップとしてやるのならばそれもいい。

直前にピアノで音を出してそれに合わせるというのは、

決まったテンポと正しいピッチを提示して、みんなでそれに合わせるという合唱を想定した発声練習だと思う。

しかし、正しい発声を獲得するための発声練習というのは、それでいいのだろうか?

 

声楽科の音大生は、数年間のうちに正しい発声をマスターしていくだろう。

もちろん、生まれもった素養がある人達なのだから当然ではあるが、

マチュアは何十年かかってもなかなか上達はしない。

仮にトータルの練習時間が同じだとしても、1回の練習時間の量の違いは大きい。

練習の深まり方が違ってくるからだ。

発声は、たくさんの部分の集合体でできていると思う。

それを一つ一つ積み重ねていくには、積み木のように時間をたっぷりかけて慎重に積み上げる必要があるだろう。

だから、少ない時間の中で慌ててやることはできない。

時間に余裕のある中で、丁寧にやっていくしかない。

そういう意味で、音大生の練習とアマチュアの練習は、「質」が違う。

上に書いたような、合唱を想定とした集団練習では、発声という技術をマスターすることはできないと思う。

 

声の出し方を練習するのに、ピアノは不要だと思う。

スケールは、それが一番簡単な音程変化のパターンだからそれでもいいが、

どうしても階段状の動き捉われてしまう欠点があるので、

私は器楽曲を使って練習している。

ヴァイオリンソロ曲のようなものや、ゆったりとしたオーケストラの曲で発声してみる。

頭の中に楽器の安定した音色のイメージができているため、

自分の声の音色が変わったり、音高が揺れたり、音量が不自然に変化した場合に、

自分ですぐに気づきやすいという利点がある。

声は楽器であるという考え方は、発声を学ぶ上で重要なポイントだと思う。

そしてやってみるとわかるが、器楽曲を使って発声練習をすると、

その音の表現(再現)のために、先生に言われていた身体の使い方が、

自然にできてしまうことだ。

そして、その後でスケールの練習をしても、なぜか上手く身体が自由に動いてくれない。

つまり、スケールがきちんと正しくできると言うことは、

発声的にかなり完成された段階でなければできないのではないかと思っている。