鼻咽腔閉鎖

鼻腔と口腔は、口蓋という仕切りによって分けられている。

口蓋の前方部は硬口蓋で、後方部は軟口蓋とさらに奥の口蓋帆そして垂れる口蓋垂からなる。

鼻腔と口腔は口蓋帆の奥で繋がっており、その部分から下を咽頭と呼び、咽頭から下の気道側を喉頭と呼ぶ。

これら5つの空間が、声楽的には共鳴腔と呼ばれる。

 

鼻腔と咽頭腔を遮断する鼻咽腔閉鎖は、口蓋帆が持ち上がり、

咽頭後壁の一部が隆起することで鼻への気道を閉じる。

鼻咽腔閉鎖が起きるのは、発話するときと飲食のときである。

発声指導で、「軟口蓋を上げる」、「喉の奥を上げる」と言われるのは、

咽頭腔や口腔の空間を広げろということである。

また、「喉の奥を引くように」とか、「後ろを回した息」というのは、

咽頭腔の収縮隆起(上咽頭収縮筋)を起こさせないということになる。

咽頭腔の後ろ側は咽頭後壁であり、その後ろは頸椎になっているので、

咽頭腔が物理的に奥に広がるということはない。

「広げる」というのは、広がるようなイメージであり、それは筋弛緩を意味するのだろう。

ただ、イメージにもマイナスイメージというものがある。

「広げる」という能動的動作にこだわり、筋肉で引っ張るということを連想してしまうからだ。

先ほども書いた通り、咽頭腔は狭まることはあっても広がりはしない。

広がるのは、弛緩した時の声の広がりだけだろう。

 

さて、この説明が事実だとすると、ある、おかしなことに気づく。

「軟口蓋を上げることは、鼻腔共鳴を強くすることではなかったのか?」

軟口蓋を上げることで、鼻腔にたっぷり息を流し、鼻腔で高い響きを集めるというのは、

発声指導の鉄則では無かったのか?

医学的には、軟口蓋(口蓋帆)を上げることによって、鼻腔への道筋が閉鎖されることになる。

鼻咽腔閉鎖不全では、明瞭な母音で発話できなくなる。

 

鼻咽腔閉鎖という言葉があるのなら、口咽腔閉鎖という言葉もあるのではないかと思って、

調べてみたが、そういう言葉は無いようだ。

声楽的に言うならば、それがハミングである。

舌根が上がり口蓋帆が下がり、呼気は口腔には流れず、鼻だけに抜けていく声。

これは何のための練習だったのだろう?

 

ネットで調べてみると、「鼻腔共鳴と軟口蓋」について書かれているブログがあった。

こちらでも同様のことが書かれており、結局は、鼻腔共鳴よりも咽頭腔共鳴が大事だということになりそうだ。

鼻腔が響くのは、間接的に響くということなのかもしれない。

それを意識しやすいように鼻腔共鳴と呼んでイメージすることは間違っていないが、

たしかに、以前「実は、鼻腔共鳴なんて存在しない」という指導者もいた。

まだまが、軟口蓋が上げ足りないのだろうか?

首の後ろが広げ方がまだ足りないのだろうか?

と思っている人も多いだろう。

でも、それが目的ではない。

大事なことは、喉や咽頭に、反射的に声の妨げになるような力を入れないよう、

身体をだましながら空間を広げてあげることなのだろう。